「母の写真」
1つ、後悔していることがある。
それが母が生きている間に、ちゃんと母の写真を撮らなかったこと。
母は写真に撮られるのが好きではなくて。
だからメイクしてお洒落して、みんなで集まるような時でもあれば…
そんな時なら綺麗に撮ってあげられるから、母も撮らせてくれるかな。
いつか機会があれば…と、そんな風に思っていた。
ただ、そんな機会を持つこともなく…
母は64歳という、亡くなるには少し早すぎる年齢で逝ってしまった。
まだまだ時間があると思っていたのに。
「腰が痛くて、仕事を辞めようと思っている」と聞いてから
2ヶ月も経たないうちに頬はこけ筋肉は削げ、見る影もないほどにやつれ…
3ヶ月経った頃には、もう亡くなっていた。
腰痛は全身に転移した癌のせいで、家族がそれを知ったのは
「余命1週間」との宣告を搬送先の病院で受けたときっだった。
もう写真を撮るどころではなかった。
そして、"自分の撮った、母の写真"というものは
もう永遠に実現できない夢になった。
よっぽどその事を後悔してたようで、1度夢を見たことがある。
亡くなる直前のモルヒネで意識が薄い状態の母が、ベッドに横たわっていて。
でもなぜか歳はかなり若返っていて、あまりやつれてもいない。
窓から差し込む光に照らされて、意味の伴わないうわ言を呟いている…
そんな母の姿が、あまりにも儚く美しく見えて。
夢の中で一眼ひっつかんで、何度もシャッターを切っていた。
現実ではなかったことを悲しむべきなのか。
それとも夢の中でとはいえ、思いを遂げることが出来たのを喜ぶべきなのか。
起きてから、少し迷った。